孤独死は突然に

孤独死問題
2025/09/30
文:藤掛千絵

知人が所有する築古の木造アパートで、孤独死が発生しました。
入居者は単身で身寄りがなく、近隣住民とも交流の少ない方だったそうです。
亡くなられてから発見までに半月以上が経過し、異臭がするとの通報を受けた不動産管理会社が確認に入り、事態が明らかになりました。

高齢化が進む社会において、孤独死は決して珍しいことではありません。
ある程度は「避けられない出来事」と受け止めざるを得ない場面もあるでしょう。
しかし、知人にとって今回大きな問題だったのは「備えをしていなかったこと」による影響でした。

今回は実際に身近で起きた孤独死の事例をもとに、賃貸物件の価値を守るために必要な備えについて考えてみたいと思います。

対策をしなければ……と思っていた矢先に

知人によると、孤独死保険には未加入でした。
タイミングの悪いことに、火災保険の付帯オプションを解約して、孤独死保険への切り替えを検討していた最中だったそうです。その結果、特殊清掃にかかる数十万円の費用は実費となり、経済的な負担を直接背負うことになりました。

厄介なのは費用だけではありません。
孤独死が発生した住戸は「事故物件」として扱われ、心理的瑕疵(かし)がついてしまいます。家賃を相場より下げなければ入居者が決まりにくく、長期的に収益にマイナスの影響を及ぼします。

知人にとって特にショックだったのは、この「事故物件化」でした。
実は同じ物件で過去にも孤独死があり、その情報が事故物件サイトに掲載されていました。
私も確認しましたが、実際に孤独死が起きてから数年後、誰かが書き込んだようです。
事件性のない自然死で、既に他の方が普通に暮らしている部屋ですが、ネット上には「事故物件」として名前が残り続けています。

孤独死保険と見守りの違い

知人は悔やんでいました。「見守りに入っていれば、せめて早期に発見できたのに」と。

孤独死は完全に防ぐことはできません。しかし、発見が早ければ心理的瑕疵とされない場合もありますし、臭気が広がる前に対応できれば特殊清掃の規模も縮小でき、費用を抑えられます。

孤独死保険は「発生後の補償」であるのに対し、見守りサービスは「被害を最小限に抑える予防策」です。
補償はもちろん大切ですが、そもそも事故物件化を防ぐ――つまり「亡くなってしまってもすぐに発見する」こともかなり重要です。

高齢化と築古物件のリスク

今回の出来事は、見守りサービスに携わる私自身にとっても強い示唆を与えました。

築古物件は空室対策として高齢の単身者にも門戸を開くケースが少なくありません。
高齢者にとってはありがたい住まいですが、その分、こうした孤独死による事故物件化のリスクは高まります。
こうした事態が続けば、大家さんの中には「もう高齢者には貸したくない」と考える人も出てくるでしょう。
そうなると、住まいを必要とする高齢者にとってますます賃貸住宅のハードルが高くなり、社会問題にもつながります。

これまで孤独死対策といえば「孤独死保険への加入」が中心でした。ですが実際には、保険は費用を補償してくれても「心理的レッテル」や「不動産価値の下落」まではカバーしきれません。
孤独死は「発生確率は低いが、発生時の損害は大きいリスク」なのです。火災や地震と同じように、賃貸経営において備えるべきリスクのひとつです。

備えが明暗を分ける

見守りサービスで早期発見につなげ、孤独死保険で経済的ダメージをカバーする。
この二段構えがあれば、万が一の際も損失を最小限にとどめることができます。

知人の物件が直面した状況は決して特別なものではなく、今後さらに多くの物件で同じ問題が起こるでしょう。
だからこそ「自分の物件ではまだ起きていないから大丈夫」ではなく、「いつか必ず起こるかもしれないこと」として備えておく必要があります。

孤独死は完全に防ぐことはできません。
しかし物件価値の保全は、見守りによって可能です。


実際に孤独死を経験した知人がもらした一言が、強く胸に残っています。
「見守りって、入っておいた方がいいんだね」

身近で起きた出来事を通じて、孤独死保険と見守りサービスを併用することの重要性を、改めて実感しました。

藤掛千絵