フレイルに陥らないために…。

高齢者見守り
2024/08/01
文:藤掛千絵

「フレイル」という言葉をご存知でしょうか。
フレイルの語源は英語の「Frailty(フレイルティ)」で、これは「虚弱」や「老衰」を意味しています。「加齢によって心身が老い衰え、社会とのつながりが減少した」状態を指し、2014年に日本老年医学会によって提唱された概念です。

フレイルには単なる「身体機能の衰え」だけではなく「精神的な衰え」や「社会的な孤立」も含まれています。フレイルにより、転倒したり骨折したり、認知症や要介護状態になったり、更には死亡のリスクも高まってしまうため、予防が必要です。

平均寿命が延び、健康寿命を延ばすことが課題となっている昨今、各自治体ではどんなフレイル対策がされているのかをご紹介いたします。

3年ぶりに延びた平均寿命

厚生労働省の発表によれば、2023年の日本人の平均寿命は、女性が87.14歳、男性が81.09歳です。前年比は女性が+0.05歳、男性が+0.04歳と、コロナ渦で縮む一方だった寿命が3年ぶりに延び話題になりました。

■令和5年簡易生命表の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life23/index.html

一方で「健康寿命」はどうでしょうか。
2024年の5月にWHOが発表した世界保健統計によれば、女性が74.8歳、男性が71.9歳です。平均寿命との差は、女性が12年、男性も約9年の差がありますが、2019年版のグラフによれば、平均寿命と健康寿命の差は徐々に縮小傾向にあるようです。
超高齢化社会を迎え、ますます高齢者の増えていく日本では、この平均寿命と健康寿命の差を更に縮めることが「個々の生活の質」を維持するための課題ともいえるでしょう。

■平均寿命と健康寿命(厚生労働省内 e-ヘルスネットより)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/hale/h-01-002.html

ちなみに、各国の健康寿命を比較すると、日本は第二位と長寿大国です。
先日、高齢者の定義を70歳まで引き上げるか否かという議論が話題になっていましたが、世界全体の健康寿命平均の61.9歳と比較すれば納得ですね。

参考資料
■世界の健康寿命ランキング・国別順位(2024年版)
https://memorva.jp/ranking/unfpa/who_whs_healthy_life_expectancy.php

フレイルを予防するためには…

健康寿命を延ばすためには、フレイル予防が欠かせません。
では、フレイル予防とは具体的に何を行うものなのでしょうか。
重要なのは下記の【3つ】です。

【身体の活動】
適度な運動を行い、筋力とバランスを保つことを意識します。
ウォーキングや水泳などが有効とされています

【栄養摂取】
バランスの良い食事を心がけます。
特にたんぱく質、ビタミンD、ビタミンKを十分に摂取します。

【社会参加】
人との交流を持ち、社会的な活動に参加します。
他者との交流により、精神的な健康を維持するためです。

一見するとどれも当たり前のことであり、とても簡単なようです。
しかし近年はコロナ渦のために室内に閉じこもってしまい、運動機能が低下したり、精神的に孤立したり、という方も年齢問わずに居たのではないでしょうか。
特に、単身の高齢者は日々の孤食により食事への興味が薄くなり、栄養を摂取できずフレイルに陥ってしまう高齢者も多くいました。

しかし、フレイルに陥らない、またはフレイルの兆候が見えた時、上の3つの活動を意識して行うことで、フレイルの進行を遅らせることが出来ます。
そこで各自治体は、様々な「フレイルチェック」や「フレイル予防」について対策を講じました。

現在、自治体で行われているフレイル対策

ここからは、各自治体が実際に行っているフレイル対策を、ニュースサイト等を例に挙げてご紹介していきます。


■健康と要介護の中間「フレイル」をAIが早期発見、電気使用量を分析…群馬・安中市が導入
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240710-OYT1T50221/


群馬県で行われているフレイル対策は、電力を測定する「スマートメーター」を使用しています。フレイルになると外出をしなくなるため、消費電力が一定になる…というデータを利用し、フレイル兆候のある高齢者の元を市の職員が訪問しチェックをする、という仕組みです。
中部電力のスマートメーターといえば、設置した家庭の消費電力から高齢者の活動を確認する「見守りサービス」にも活用されていますね。民生委員の数も減っている昨今、兆候を察知して必要な人の元にすぐ迎える技術の需要はますます拡大するでしょう。


■京都市にみる「フレイル予防」の未来とは?――想い×デジタルが高齢者を笑顔にする
https://wisdom.nec.com/ja/feature/healthcare/2022092601/index.html?cid=wis_ana_microsoft-dsa_average&msclkid=f133e1105ecc16574c7887b0e828bfaa

京都市では電気メーカーと協力し、高齢者が訪れる「介護予防教室」の場所で、高齢者自身の身体機能の数値をデータ化し、改善に役立てています。
データを適切に見せることで、自分自身で体の現状を理解し、対策しやすくなるという方法は、群馬県のAIで見守る対策とは異なる方法ながらも効果があります。

■今すぐ予防!プログラム 「ハマプロ」 新たな介護予防サービスについて
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/kouki/koukihokenjigyo.html

神奈川県でも、京都市と同様に高齢者自身の数値をデータ化し、一人一人にあった介護予防サービスをプログラムするサービスが開始されました。
地元のスポーツジムでもサービスが受けられるという経験は高齢者にとっても目新しく、また交流のきっかけにもなり、精神的にもフレイル対策になりそうです。

最後に…

人の手によるフレイルチェックにAIやICTという技術を加えることで、高齢者にとってだけではなく、周囲にも利点が生まれていることが、上記の例からお判りいただけたと思います。

またフレイルは要介護の手前ということで、高齢者が主に気を付けることですが、フレイルの前段階である「ロコモ」(運動器に障害があり、移動機能が低下した状態)などは、高血圧や生活習慣病のある方の場合、若いうちからなる可能性があります。
ミドル世代、若い世代の方々も、日々自分自身の体をチェックすること、そしてフレイル・ロコモの知識を得ておくことで、将来の健康寿命を延ばしていただきたいと思います。

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藤掛千絵